2023/05/02

 

うちのパパは阪神が負けると機嫌が悪くなる。つまり機嫌が悪い日の方が圧倒的に多かった。テレビのチャンネル権を絶対に譲らないくせに阪神の負けが確定した途端「はよチャンネル変えてくれ」と言い出す人だった。二十歳くらいまではパパのことそんなに好きじゃなかった。そもそも父親なんてそんなもんだと私は思う。反抗期の頃にちょうど父子家庭になったから本当に地獄だった。まずい焼きそばを食べながら泣いてた。ばあちゃんが泊まり込みでよく来てくれた。ばあちゃんは未だに「あんたんところは三階まであるからお掃除が大変だったわ」とぼやいてる。引きこもりの兄と反抗期の妹。私は高校生になって少しずつ親の有り難みを知り夜ご飯を作るようになるんだけども、毎月渡される食費からこそこそお小遣いを引き抜いてたのであまり褒められるもんではない。

 

大人になり離れて暮らすようになってパパのことが大好きになった。娘にデロデロに甘い駄目な父親だから、大阪に帰るたびに諭吉を一枚くれる。休みが合えば大阪駅まで送ってくれる。車の中で最近観た映画をお互い言い合う時間が楽しい。パパは観た映画とその感想とスコアを学生の頃からノートに認めている。それが遺書らしい。この間帰ったとき、エクセルを使って中学生からの映画鑑賞記録をまとめ始めていた。年表にして最終的にはいつどのタイミングで何を観たのか分かるようにしたいらしい。思えば毎シーズン、プロ野球の試合結果もノートにまとめていた。親の離婚はやはりショックなものではあったけど自分なりの楽しさを見つけて楽しく生きるパパの姿はこの先も私の背中を押し続ける。

 

私は今の生活を墓まで持っていくつもりである。生まれた場所も育った場所も挫折したり苦労した場所もみんな違う。幼なじみもいないし転校も二回したし母親はしばらく居なかった。色んなこと、全部仕方なかったんだと思うようにしてる。テレビを付けて阪神が勝ってると今でもなんだかほっとする。蘇る過去を辿るとキリがないほど胸が痛い。昔住んでいたマンションを思い出すとき、なぜかいつも曇り空なんです。ようやくここまで来たんだと時々涙が出る。ようやくここまで来たのに取り返しのつかない生活を手に入れてしまったことにも。また振り出しに戻ってしまったかもしれない。高校の帰りに制服姿で毎日スーパーに行ってた。私は私のことを褒めてあげたい。パパの映画記録が完成する頃にはもう少し明るい未来を見られるように。