2023/03/01

 

純粋な心を保ち続けたいからこのままで居たい。周りがどんどん変わっていっても私は私のままで居たい。あまりにも贅沢で愚かな願い。昔から逃げたけりゃ逃げてもいいよと言う親の元で育った。誤魔化されながら生きてきたからこんな大人になった。専門学校で映画を撮ってた頃は何の曇りもない自身の将来が楽しみだった。今でも時々あんな風になりたいと思うけど、それでも私はやっぱり今の私を最終的には選ぶんだろう。男も女も関係なく雑魚寝したりお好み焼きを焼いたり車で旅した夏のこと。白い息を吐きながら早朝の電車で撮影に向かった冬のこと。その後続いた束の間の夢みたいな日々はみんな改めても過去のものでしかなかった。

 

卒業後、東京に出て入った制作会社は勝どきのマンション内にあった。これからどうなるんだろうという莫大な不安を抱えた私は、見るからに育ちが良さそうな制服姿の小学生や綺麗なマダムと一緒にエレベーターに乗ってた。多分あの時点で既に壊れかけていた。千葉でのシェアハウス生活はそれなりに楽しかったから今でも心置きなく思い出す。初めてみんなが揃った日に作ったカレーは美味しかった。ベランダのある部屋を選んだのに、あのベランダに良い思い出は残らなかった。当時仲が良かった友達に彼氏と別れたんだって泣きべそかいて電話したときしか頼りにならなかったから。剥がれ落ちていく純粋な心と上手に向き合っていたから全て失わずに済んだのだ。そう自分に言い聞かせながらこうしてここで生きている。東京から大阪に帰るまでの数週間働いた某遊園地のお土産を梱包する広い工場。あそこで知らない人たちとラジオ体操するよく分かんない尊い時間、あれだけは無性に恋しいな。

 

毎朝同じ時間に起きて同じ朝ご飯を食べて「肌荒れが治らねえ」と嘆きながらメイクして。曇り空の下チャリを漕いで仕事に向かう。腰が曲がったジジババに理不尽に怒られてるときも私は頭の中でこうして過去の私を憂うのだ。新しい土地に住み着いて性格が悪くなった。またもや剥がれ落ちていく純粋な心にしがみつくのに必死だ。私は私のままで居たいなんて綺麗事だ。悔しいも悲しいも情けないもアホらしいも全部飲み込んでペチャンコに踏み潰した上での「自分らしさ」だ。逃げても構わないけど、もう戻ってはこれないよ。他人に比べると自分のことをよく分かってる方だと思う。テレビを見るときも映画を観るときも字幕をつける。その理由を知るのは私だけでいい。誰のものにもしない。シワやシミが増えてっても私は私のままで。