2022/06/04

 

 

子供の頃から家までの帰り道が一度も変わらない人生ってどんなだろう。何重にも更新された定期券とか学生時代に貰った切れかけのミサンガとか色んな味の涙が染み込んだマフラーとか。その人にしかない、その人にしか分かり得ない思い出ってなんか良いなあ。お酒の席でそんな話を聞いてると思わず泣いてしまいそう。

 

お金がなくてコンベアで流れてくるチョコレートを箱に詰めるバイトをしていた頃がある。駅を降りると無料の送迎バスが停まってた。乗り込んで出発するまでの数分間、いつも本を読んでた。朝が早くてバスの窓から差し込む日の光が眩しかったのを覚えてる。あの日々は辛いとか虚しいとか情けないとかそういうのはなかった。ただただ必死で自分の生命にしがみついていた感覚。

 

私にも私にしか分かり得ないことがある。言えないことも言わないこともあって、時々それが苦しくて誰かに言いたくもなる。字が汚くなってもちゃんと毎日、日記をつけていた健気な私に会いたい。この日のために昨日までがあったと思える時間を過ごしたい。なんだかずっと寂しいよ。

 

夜中によく目が覚める。静かで暗くて寂しくて音楽を聴きたくなってイヤフォンを付ける。どうしようもなく不安な気持ちになると楽しい音楽を聴きたくなる。大人だけど子供みたいに小さい小さい心になる。そもそもはみんな子供の延長線で大人になっただけだから、子供の心に戻ることは特におかしいことではないんじゃないかと自分を宥めては気付けばまた眠りにつく。

 

チョコレートの工場には何回か行った。私のパパよりも年上らしきおじさんたちと一緒にチョコレートを箱に詰めたりバスに揺られたりした。やっぱりその人にしかない人生というものは、なんとも不思議で神秘を纏っているよう。どんな人生があったとしても、それを何かのきっかけで知ることがあったとしても、大事に聞いてあげたい。