春になったら鎌倉に行こうと思ってた。夜行バスに乗って電車を乗り継いで江ノ電で七里ヶ浜まで行こうと思ってた。予想不可能こそが面白いなんて謳ってる人間はどうかしてる。予想通りに楽しいことや嬉しいことを積み重ねて生きていたかった。それだけだった。
私はやっぱり普通の人間で。普通の人間っていうのはドラマを見た後にその主題歌が頭から離れなくなったり、スパゲティを食べてる友達を見てるとスパゲティを食べたくなったり、それでもオムライスを注文したり、好きな映画の好きなシーンを頭の中で巡らせては幸せを感じられる人間のことで。
この間、映画館で映画を観た。終わって外に出てから中に傘を忘れたことを思い出して走って取りに戻った。特に大事な傘ってわけでもなかったけど高揚感からか、なんかすごい心臓がバクバクしちゃって階段を駆け上がってた。そのときの自分が観たばかりの映画の主人公と重なってちょっと面白かった。そんな話。
例えるならドラマを一話だけ見ることはできても映画を一本丸ごと観ることはできないときがある。音楽を一曲だけ聴くことはできてもドラマを一話だけ見ることはできないときがある。いつもは生活の中にある娯楽でも自分の都合次第では気休めにしか、いや気休めにもならないときがある。とても悲しくなる。
人は言葉でできてるから。メロディに乗せたり感情に乗せたり自由自在に操ることができる生き物だから。私はそんな言葉を「言葉」そのまんまでしか保存できなかった。生身のまんま調理はできなかった。大体の人はそうだろう。調理しようと考えられただけ私はきっと偉い。
一体いつまでこのままなんだろう。こんなことを毎日考える。悲しみはしばらく続きそうだ。引っ付くのは簡単だけど離れるのは難しい。考える時間以上に忘れてからの時間の方が長いのかな。長い長い道のりでまた思い出したときが一番辛いのかな。耐えられるかな。
来年の春は鎌倉に行きたい。夜行バスに乗ってカーテンの隙間から小さい光を集める。朝になれば電車を乗り継いで江ノ電で七里ヶ浜まで行く。海沿いの道路を歩きながら好きな映画の好きなシーンを思い浮かべる。そのとき、隣に誰かがいてもいなくてもどっちでもいい。帰りは横浜に寄ってラーメンでも食べよう。