2019/07/25

 

終わりは必ず来る。不安に押しつぶされながらも何とか這いつくばってゴールへたどり着くたびにそう思う。楽しかったり嬉しかったりした日々にさえ終わりは来るらしい。蝉の鳴き声で目が覚める。風と共に汗の匂いがする。夏が始まって私が終わる。

 

美容院に行った。聞き馴染みのない長ったらしい片仮名の名前の色に染めてもらって、仕上げに可愛く髪の毛を巻いてもらった。帰り際には本屋さんに寄って装苑を買った。電車の中で久しぶりに聴くウルフルズはたまらなく最高だった。早くウォークマンが欲しい。

 

この1年間で色んなことがあった。色んな気持ちの変化もあった。仲が良かったはずの友達が連絡をくれなくなったり好きだった人のことを考える時間が減ったりビールを飲めるようになったり。本当に色んなことがあったけど思い返せば私はやっぱり私のままで泣いたり笑ったり落ち込んでばっかりだ。

 

年金とか保険とか税金とか選挙とか。悲しい事件とかくだらない騒動とか。暑い夏に対するじめったい胸のざわめきが歯がゆくて苦しくて寝つきが悪い毎日が続く。きっと秋が終わる頃も同じように寒い冬に対する寂しさに苦しくて寝つきが悪くなるんだろう。そうやって今年も過ぎていくのか。

 

私は夢ばっかりが大きい。目を瞑れば色鮮やかな眩しくて明るい未来が浮かぶ。私は下手くそな笑顔で幸せそうに自信いっぱいに「ずっとこの日を待っていました」なんてことを言っている。似合わない真っ赤なワンピースで着飾ってフラッシュを浴びたりなんかして。夢ばっかりが大きい私が描く未来予想図は誰よりも何よりも輝いていた。夢よ、どうか醒めないでおくれ。

 

風鈴の音を聞きながらそうめんが食べたい。高校生のときみたいに公園で水風船を作って遊びたい。バーベキューがしたい。お泊まり会の日は好きな人と抜け出して深夜のコンビニでアイスを食べたい。私の心はまだ青春のど真ん中にある。それは全部夏のせいだ。きっと夏のせいなんだ。

 

ポンヌフの恋人を初めて観た日のような衝撃がたまに恋しくなる。もしも自分にこれっぽっちも才能がないのだとすれば、死ぬまで永遠に与えられる側でいるしかないのだとすれば、今までもこれからもあの衝撃が頭をガツンと叩き続けるのだろうか。

 

私が「辛くて突然涙が出る。悲しくて不安になる。生きるのをやめたくなる」と言えば「わかるよ」と頷いてくれるあの子にも「大丈夫だよ。そのうち治るよ」と励ましてくれるあの子にも側で手を繋いでくれる優しい彼がいるんだって。私には誰もいない。どうしたらいいんだろう。みんなは私の何を知ってるんだろう。そんなことばっかり考えては自分のことが嫌いになる。

 

終わりは必ず来る。明日になれば分かる。最後の最後まで私は変われなかった。弱虫で意気地なしで、そのくせ頑固な私のままだった。蝉の鳴き声で目が覚める。明日になれば分かる。夏が始まって私が終わる。麦茶の入ったコップから氷が溶ける音がした。