2020/05/23

 

両手で器を作って水を掬うときに上手く掬えなかったら落ち込む。スーパーの出口で卵のパックが入った袋を落としたおじいちゃんを見かけたときは悲しくなった。大きい不幸よりも小さい不幸の方が心に負担がかかる。それの積み重ねで私は壊れていく。死んでしまうよりも先に壊れてしまうとどうなるんだろうか。

 

学生のときにしていた派遣のアルバイトでは色んな人に出会った。もう名前も顔さえもあまり思い出せないのにふとした瞬間、例えばお風呂場で髪の毛を洗ってるときとかに色んな人たちと過ごした空間を思い出す。住宅展示場で記念品とアンケートを渡すバイトをした日に出会ったのは色褪せた衣装を着たピエロだった。ピエロはよく見ると腰の曲がったおじいちゃんで衣装と同じように真っ赤なお鼻も既に真っ赤ではなくなっていた。

 

雨で人も少なく退屈なバイトだった。そんなとき客寄せのために現れたピエロのおじいちゃん。風船を片手に懸命に手を振るピエロの後ろ姿はあまりにも眩しかったんだよね。夕方近く、おじいちゃんは私に「風船で何か作って欲しいのある?」と聞いた。私は「うさぎ」と答えた。ピエロのおじいちゃんは嬉しそうに風船でうさぎを作った。私も喜んだ。帰り際におじいちゃんはポケットからグレープフルーツ味のフリスクを取り出して私にくれた。もう一人同じバイトの人はいたのに私だけにくれた。食べかけのものと新しいやつ。あの酸っぱい味とピエロの笑顔だけは今でも忘れられない。

 

隙間風の入る今の家は私の新しい居場所。部屋に飾ってある秒針の音がうるさい時計は近くのホームセンターで買った。部屋の広さは前よりも半分くらい広くて落ち着かない。ふすまを挟んで隣の部屋で寝ている二人のことを考えると私は死にたくなる。好きな本とかCDを沢山積んだ場所を眺めていると少しだけ穏やかな気持ちになれる。布団の上には猫。私の居場所はここ。

 

先週くらいまでは誰かを信じることよりも自分を信じてあげることの方が難しいと思ってた。でもやっぱり誰かを信じることも相当難しいと改め直したばかり。人は何故裏切ってしまうんでしょうか。人は何故許してしまうんでしょうか。人は何故いつもどこかに孤独を背負ってしまうんでしょうか。心の拠り所を求めた先が相手と同じならば良かったのに。

 

近況。お洒落なお花を貰った。クリームソーダを作って飲んだ。久しぶりに電車に乗った。冷たい風から少し冷たい風に変わった気がする。新しい夏用のTシャツが増えた。今年に入ってまだ半袖は着てない。夢の中でタイムスリップをした。夢の中で悲しい出来事も起きた。生きている中で立ちはだかるのは乗り越えられる壁ばかりではない。乗り越えなければ壊せばいい。

 

簡単なこと。自分にとって不利益なものには耳を塞げばいい。簡単なこと。泣きたければ泣けばいい。簡単なこと。塞いだ耳はそのままずっと離さなければいい。簡単なこと。私は私だけを信じてあげて。夜中にお腹が空いても許してあげて。眠れなくても落ち込まないで。急に寂しい夜、世界はちょっとだけ広くあってほしい。